○午前 8:30~11:30
午後 16:30~19:30
●土曜日 午後 14:00~18:00
《病態》
血管輪異常は、胎児期の大血管の発生異常により生じる先天性疾患です。正常な発生過程では、胎児期に存在する6対の鰓弓動脈のうち、特定のものが退化し、残存したものが大動脈弓や肺動脈などの大血管を形成します。しかし、本来退化すべき血管が残存したり、正常とは異なる血管が形成されることで、食道や気管を取り囲むような血管の輪(血管輪)が形成されます。
最も多く認められるのは右大動脈弓遺存症(PRAA:Persistent Right Aortic Arch)で、血管輪異常の約95%を占めます。この病態では、本来左側に形成されるべき大動脈弓が右側に形成され、さらに動脈管索(または動脈管)が左側に残存することで、食道と気管が血管によって囲まれた状態となります。
好発犬種として、ジャーマン・シェパード、アイリッシュ・セター、ボストン・テリア、グレートデーンなどの大型犬に多く見られますが、小型犬での報告もあります。
《 症状》
血管輪異常の症状は、主に食道の圧迫による嚥下障害から生じます。症状の現れ方は、血管輪による圧迫の程度と食道の拡張度によって決まります。
主要症状:
- 吐出(嘔吐ではない):最も特徴的な症状で、離乳食開始後から認められます。固形物を摂取した際に、食物が食道内に停滞し、未消化のまま吐き出されます。
- 成長不良・体重減少:栄養摂取不良により発育が遅れ、同胎犬と比較して明らかに小さくなります。
- 嚥下困難:水分は比較的通過しやすいものの、固形物の嚥下が困難になります。
- 食後の咳嗽:食道内容物の誤嚥により呼吸器症状が現れることがあります。
続発的症状:
- 誤嚥性肺炎:食道内容物の気道への流入により肺炎を引き起こし、発熱、呼吸困難、咳などの症状が現れます。
- 食道拡張:慢性的な食物停滞により食道が著明に拡張し、巨大食道症の状態となります。
症状は通常、離乳期から固形食の摂取開始とともに明らかになりますが、軽度の場合は成犬になってから発見されることもあります。
《治療法》
血管輪異常の根本的治療は外科手術のみであり、内科的治療は対症療法にとどまります。
内科治療(対症療法):
手術が困難な場合や術後管理として以下の治療が行われます。
- 流動食・半流動食による栄養管理
- 少量頻回給餌
- 食後の立位保持
- 制酸剤投与(食道炎予防)
- 誤嚥性肺炎に対する抗生剤治療
予後:
早期診断・早期手術により良好な予後が期待できますが、手術後も食道の拡張が残存する場合があり、長期的な食事管理が必要となることがあります。診断が遅れ、重度の食道拡張や誤嚥性肺炎を併発した症例では予後が悪化する傾向にあります。