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みどり動物病院 コラム

院長のひとりごと【動物園を考える】
朝日新聞2020年9月20日「動物たちはどこへ」の記事を読んで、やっと公共目線でこの問題を提起するときが来たのかと感じ入ったのは私だけでしょうか?
常々皆さんも少しは考えたことがあったと思います。
子供の頃、子供に人気のコーナー「こども動物園・ふれあいコーナー」にいるひよこ、仔ヤギ、モルモット、ウサギたちはどこに行くのだろう?キリンの子供は大きくなったらどうするのだろう?とぼんやり考えた時期がありました。

 2016年デンマークの動物園での出来事に関する記事を読んで色々考えさせられました。
その一部を紹介します。
 デンマークの動物園でオスのキリンが誕生しました。誕生した時には新聞に赤ちゃんの写真が掲載され、名前を市民から募り、そのキリンはマリウスと名付けられました。とても人気があり多くの市民が動物園を訪れマリウスをかわいがりました。マリウスはやがて両親と同じくらいに成長しました。しかしキリンは、動物園では1頭の雄と数頭の雌でしか飼育できないそうです。理由は複数の雄を飼育すると縄張り争いと近親交配の問題が出てきます。そこで動物園は新聞で広報した後、マリウスを特殊な銃で射殺し、市民公開で解剖を行いました。その後マリウスは解体され動物園の肉食獣達の餌として提供されました。この行為は広く世界に知られることとなり欧州動物水族館協会でも調査されました。動物園側の説明は、殺処分は近親交配を避ける為・飼育環境の広さの問題の為に、公開解剖は市民に対しての動物の体の仕組みに関する教育情報提供として、解体した肉の処理に関しては本来の野生の仕組みと野生感を取り戻す為と回答しました。
 現在、欧州地域では約7500~20000頭の動物が動物園で余剰になっているそうです。各動物園間でトレードされたりして調整もされていますが、どれでも解決できない時には、食肉として動物園内で処理もされているということです。
私達は動物園に何を求めているのでしょうか?かわいい子供の動物は日々成長していきます。かわいい時期だけを求めていることはおかしなことです。動物は生き物です。成長し繁殖もします。
 従来の動物園は、やはり野生動物の展示のみが主目的でした。その為一度訪れた人達は再度訪れようとする機会がかなり限られてしまいます。「人と動物との関係学会」の機関誌でもこの動物園に関する話題が取り上げられていました。ある報告によれば、人の生涯の間、動物園に訪れる回数が3回と言われ、この回数を超えさせることが動物園関係者の目標と言われたことを思い出しました。この3回の根拠は、1回目は子供の時親に連れられて、2回目は青春期にデートの場所として、3回目は結婚して子供が生まれて連れて行く、の計3回だそうで、の回数以上に来園してもらうことが重要だそうです。
動物好きの私は軽くこの回数の数十倍はクリアしていると思いますが、そうでない方は一般的にはこの程度なのでしょうか。すると訪れる目的が、コアラなど珍しい動物の展示があった時、パンダなどのかわいい赤ちゃんが生まれた時なのでしょう。
 あなたはなぜ動物園に行くのですか?という調査をある団体が実施したところ、家族と同じ時間を過ごしたいから、家族と同じ話題で話したいからという回答が目立ちました。一昔前ですと珍しい動物を見るため、かわいい動物の赤ちゃんを見るためなどが上位を占めましたが、訪れる目的も時代とともに様変わりです。
 今日では、動物園も様々なスタイルがあります。現在の動物園は来園者視線重視の展示方式ではなく、動物視線重視に移行して展示する工夫がしてあります。より自然に近い環境で飼育され人から隠れられる場所があったり、十分な運動スペースがあったり、多種混在で展示されたりと様々な工夫がされています。郊外に位置する井の頭公園、多摩動物園などでは、広い広場や多くの木々が茂っていたり開放感があり、自然の中で家族でくつろげる場所になっていたりもします。一方都市型の上野動物園、天王寺動物園、東山動物園などでは、限られたスペースの中で様々な工夫を凝らした展示方法をとり動物のストレスを軽減しながら来園者を楽しませています。飼育されている動物たちは、飼育員さん達動物園関係者により大事に飼育管理され、自然での生存期間より大幅に寿命も更新しています。一方で、繁殖に関して考えると様々な問題が噴出しています。ゴリラなど希少動物の繁殖の難しさやライオンなどの多産系動物の問題、雌雄の性別の問題・血縁関係の問題など複雑に絡み合った問題が存在します。やはり自然でない人工的な環境での野生動物特有の問題で、人間の都合で管理することが難しいことです。特に多産系動物の個体数、雌雄の産み分けができないことは、赤ちゃんの誕生は嬉しいことですが、一方では本当に悩ましく避けては通れない切実な問題でもあります。
 動物園は人々にとって、憩いの場でもあり教育の場所である一方、動物にとっては、種の保存や復活の場所でもあります。動物の飼育はその動物の生涯を面倒見ることでもあり、光の当たる場所だけでなく、そうでない時期もあることを忘れてはいけないと思います。
 
動物園自体は、人の社会のように楽しい場所であると同時に色々な困難をも抱えている場所だと思います。動物園が、私達にとって一生涯で3回訪れる場所ではなく、年に3回は訪れる場所となり、動物を通じて自然や環境を学び、楽しみ、考えさらに人として成長できる場所になることを期待しています。
2021.01.20
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