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みどり動物病院 コラム

リフィーディング症候群
名古屋に住んでうん十年、初めて名古屋城へ行ってきました。
名古屋城は徳川家康の命により築城が開始され、1612年に天守閣が完成したそうです。
数年前に復元された本丸御殿には、絢爛豪華な襖絵や障壁などが数多くあり、中でも欄間の装飾は見事でした。
石垣もオススメです。巨大さに圧倒され、斜面の反りには美しさを感じました。
重機がない時代に、すべて手作業で築き上げられた石垣はまさに芸術作品ですね、匠の技です!

戦国時代のお城といえば、こんな話を思い出しました。
羽柴秀吉が敵軍に対して兵糧攻めを行った時の話です。
城内では、補給路を絶たれ兵糧が底をつくと、はじめは木や草の葉、馬のエサを食べるようになり、それが尽きると、牛・馬・鶏を食べるようになりました。さらに食べるものがなくなると、人の肉まで食べたそうです。
秀吉はその惨状をみかねて、城主の自決を条件に降伏を許可しました。
開城後、飢餓状態の兵士や村人に、粥を炊いて振舞い、飢えた人々はそれをむさぼりました。
しかし、粥を食べた人の約半数が命を落としてしまったそうです。
一体なぜなのでしょうか?
現代の分析では、兵士や村人は「リフィーディング症候群」を発症したといわれています。

リフィーディング(再給餌)症候群 とは・・・
長期的な低栄養状態に対して急激な栄養補給を行うことで水、電解質分布の異常が引き起こされる様々な代謝疾患の総称です。

飢餓に陥ると、エネルギー代謝は、糖を主体としたものから貯蔵された蛋白や脂肪を利用するものに変わります。さらに飢餓が長期になると脂肪が主体となりケトン体を生成しエネルギーを獲得するようになります。ビタミンやミネラルも枯渇していきます。
この状況で急激に栄養補給が行われると、糖主体の代謝にシフトチェンジし、インスリンが急激に分泌されます。
インスリンの働きでブドウ糖が体の細胞の中に取り込まれ利用されるのですが、一緒に血液中のリン、カリウム、マグネシウムなども細胞の中に移動します。これらが血液中から少なくなってしまうということです。
もともと栄養不良で少なかったのに、さらに細胞の中に移動することで、リン、カリウム、マグネシウムが血液中からは危機的に不足してしまいます。
また、糖代謝により、ビタミンB1も不足します。
これらが欠乏することで様々な症状が起こります。

低リン血症による症状
→心不全、不整脈、呼吸不全、意識障害、溶血性貧血、けいれんなど

低マグネシウム血症による症状
→不整脈、神経筋合併症など

低カリウム血症による症状
→麻痺、不整脈、呼吸不全など

ビタミンB1欠乏による症状
→ウェルニッケ脳症(意識障害、眼球運動障害、低体温、昏睡など)、コルサコフ症候群(記憶障害、作話症など)

他には、高血糖、低血糖、腎不全、肝機能障害などもあります。死に至ることもあります。

リフィーディング症候群を防ぐには、少量の栄養投与から始めて、リン、カリウム、マグネシウムなどをモニタリングしながら、何日かかけて徐々に増量する必要があります。

リフィーディング症候群は、ワンちゃんやネコちゃんでも起こります。
長期間ほとんど食べていない状態の子に、急にたくさんの栄養を与えると、上記のような状況になってしまうかもしれません。
ほんの少量から始めて、数日~1週間以上かけて、 ゆっくりと、その子の状態をみながら徐々に量を増やしていきます。
ガツガツ食べてくれると、ついたくさん食べさせてあげたくなりますが、グッとこらえましょう。

昔飼っていた猫が行方不明になって1ヵ月後に帰って来たことがあります。
ガリガリに痩せていたのですが、バクバクとドライフードを勢いよく食べてくれて、家族で喜んだ覚えがあります。
リフィーディング症候群を起こす可能性があったかもしれないと思うと恐ろしいです。
幸いなことに、その後は元気に過ごしていました。どこかで何か食べていたのかもしれませんね。


ちなみに名古屋城は、リードをつけていればペットと散策できるそうですよ。(建物内には入れません)
お城をバックに一緒に写真などいかがでしょうか。
AHT 安部
2022.11.24
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