犬の気管虚脱
犬の気管虚脱は原因不明の気管の扁平化により、咳や呼吸困難などの呼吸器症状を起こすようになる疾患です。
正常な気管は内側の粘膜層と外側の平滑筋を、C字型の気管軟骨が外側から支える構造になっています。この気管軟骨の弾性が低下し、背腹方向に扁平化することで空気の通り道が狭くなり、その結果呼吸時にガーガーというガチョウのような呼吸音が発生します。また、気管の変形や気流の乱流により気道の粘膜を刺激し、炎症や浮腫を引き起こします。痰が絡んだような咳をすることがあり、何も吐くものはないが吐き気があるようなしぐさに見える場合があります。
ヨークシャーテリア、ポメラニアン、プードル、マルチーズ、チャウチャウといった小型犬種で多く認められ、大型犬での発生はまれです。1~5歳での発症が多く、肥満傾向があると皮下脂肪による頸部気管の圧迫、高体温などによるパンティング(あえぎ呼吸)を誘発しやすくなり発症のリスクが高まります。
症状は気管の扁平化の程度により軽度~重度と様々ですが、徐々に進行し呼吸困難や難治性の咳を引き起こしQOL(生活の質)の低下をもたらします。
診断は犬種や年齢、呼吸の様子や呼吸音といった一般身体検査のほか、胸部のレントゲン撮影により、吸気時と呼気時の気管の変形を評価することで行います。頻呼吸などで評価が難しい場合、X線透視画像や呼吸器内視鏡検査が補助的に行われます。
治療は、症状が軽度であれば過剰な興奮、気管の圧迫や刺激を避けるよう注意しながら経過観察とする場合もあります。
そうでない場合、症状緩和と進行抑制のための内科的治療または根治をめざした外科的治療が検討されます。
内科療法では、咳の症状を抑えるための鎮咳薬や気管支拡張剤のほか、咳や唾液の誤嚥による炎症・浮腫や細菌感染の併発が疑われる場合に、副腎皮質ホルモン製剤(いわゆるステロイド剤)や抗菌薬の投与を行います。それに加え、症状が重度の場合や増悪時には酸素の吸入や呼吸を落ち着かせるための鎮静剤の投与を行います。また、即効性はありませんが軟骨の構成成分であるグリコサミノグリカンや硫酸コンドロイチンの投与が症状緩和に役立ったという報告があります。
外科療法では、変形した気管の内腔を拡げるための気管外プロテーゼや気管内ステントといったインプラントの設置を行いますが、変形の部位や範囲により適応に制限があること、脱落などの可能性があるほか、全身麻酔のリスクといった問題点があります。
咳や異常な呼吸音の原因には気管以外にも、鼻咽頭、気管支、肺、アレルギー、循環器、逆くしゃみなど様々なものが考えられるため、気になる咳、呼吸音がする場合にはお早めにご相談下さい。
2018.05.15