動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

精巣腫瘍

犬の精巣腫瘍は精細胞種、セルトリ細胞腫、ライディッヒ細胞腫の三つが主なものになります。両側性に発生したり、複数の腫瘍が重複して発生することもあります。腫瘍の発生年齢は陰嚢内の精巣に比べて潜在精巣の方が早く腫瘍化する傾向にあり、また潜在精巣の方が腫瘍化の危険性が10倍以上高くなるとも言われています。


※潜在精巣・・・精巣が陰嚢内に降りておらず、鼠径部もしくは腹腔内に存在している状態のことをいいます。生後半年の時点で精巣が陰嚢に降りているかを触診にて確認し、降りてなければ潜在精巣を疑います。


猫の精巣腫瘍は犬に比較してかなり少なく、精細胞腫、セルトリ細胞腫、ライディッヒ細胞腫に加えて奇形腫の報告があります。


腫瘍化した精巣は腫大し、左右で精巣の大きさが異なるため見た目と触診で判断できます。しかし、腹腔内にある潜在精巣が腫瘍化した場合はレントゲン検査や超音波検査を行わないと発見されないことが多いです。

また、腫瘍化に伴い様々な症状が認められるようになります。

セルトリ細胞腫と精細胞種はエストロジェンを産出し、雌性化現象(脱毛、乳房の発達、乳汁漏出、色素沈着、陰茎の萎縮、雄犬の誘引など)や貧血を引き起こします。

また、転移する確率は10%程度で、リンパ節や肺、腹腔内臓器に転移します。ライディッヒ細胞腫は良性腫瘍のため転移をしないと考えられています。


治療としては精巣の摘出が推奨されます。陰嚢内の精巣腫瘍の場合は、通常の去勢手術で摘出が可能です。

鼠径部にある潜在精巣は直上の皮膚を切開し摘出し、腹腔内の潜在精巣は開腹手術による摘出となります。いずれも転移所見がなければその後は経過観察となります。もし転移が認められた場合は補助療法として抗がん剤投与が推奨されます。腹腔内に限局した転移であれば、腹腔内投与や静脈内投与、全身への遠隔転移であれば静脈内投与が選択されます。いずれにおいても、精巣腫瘍の転移症例は治療が奏功しやすいので全身状態が許す限りは積極的な治療が有効となる場合があります。


精巣腫瘍は若齢期の去勢手術によって完璧な予防が可能です。とくに潜在精巣が明らかな場合は早期の摘出手術を推奨します。



2018.07.19