動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

犬の皮膚肥満細胞腫

【病態】
肥満細胞腫は犬の皮膚腫瘍の中では最も発生頻度が高い腫瘍です。
ほとんどが皮膚や皮下組織に発生し、その他の組織(消化管や脾臓)に原発することは比較的少ないと言われています。
腫瘍は硬いしこりのようなものから柔らかいものまで様々な形をとります。
所属リンパ節や肝臓、脾臓などに転移しやすく、さらに進行すると骨髄に浸潤していきます。
肥満細胞腫の腫瘍細胞にはヒスタミンやヘパリンなど様々な成分が含まれています。腫瘍を触ったりすることで、これらの成分が腫瘍細胞から放出され、胃十二指腸潰瘍、腫瘍周囲の浮腫や紅斑(ダリエ徴候)、血圧低下、嘔吐など急な全身症状を引き起こすことがあります。これを肥満細胞腫の腫瘍随伴症候群といいます。

【診断】
肥満細胞腫の診断には針吸引生検(FNA)が有用です。この検査により診断がつくことが多いですが、判断が困難な場合もあります。その場合はコア生検など組織を切除して検査することが必要です。
組織を切除した場合に限り、皮膚肥満細胞腫のグレード分類(1:低悪性度、2:中悪性度、3:高悪性度と分類される)が可能であり、このグレード分類は大切な予後判定因子となっています。
また、切除した組織でKIT遺伝子の変異検査というのを行うことで、予後や分子標的薬の効き目を予測することが可能となります。

【治療】
肥満細胞腫の治療では、外科手術と放射線療法による局所療法が最も大切と言われています。グレードの低い肥満細胞腫であれば外科手術のみで完全切除できる可能性が高いです。放射線は手術で取りきれなかった場合や、手術ができない場合に実施されることが多いです。
化学療法は以下の条件に当てはまる場合に実施されます。
①グレードが3である。
②脈管内浸潤がある。
③リンパ節転移がある。
④外科切除が不完全で、放射線療法が実施できない。
⑤何らかの理由で外科手術、放射線療法ともに実施できない。
⑥腫瘍が多発している。

肥満細胞腫に対する化学療法として、ビンブラスチン、ロムスチン、クロラムブシルなどの抗がん剤が使用されることが多いです。しかし、抗がん剤は骨髄抑制や消化器症状など副作用が強く出る場合もあります。
犬の肥満細胞腫はプレドニゾロン(ステロイド剤)のみで効果が見られることもあるため、化学療法を実施しない子ではプレドニゾロンが単独で用いられます。
近年、肥満細胞腫に対して分子標的薬という薬が使用されています。これは特定の分子を標的にして攻撃をするため、高い治療効果と低い副作用が期待されています。肥満細胞腫ではイマチニブやトセラニブなどが使用されています。イマチニブに関してはKIT遺伝子の変異がある方が奏功することが分かっています。
また腫瘍随伴症候群にたいしては、ヒスタミン受容体拮抗薬(ジフェンヒドラミン、ファモチジン)や粘膜保護薬(スクラルファート)を使用する事で症状を抑えることができます。


このように肥満細胞腫は見た目だけでは判断できず、治療も多岐にわたるため早期の診断が必要になってきます。皮膚にしこりや潰瘍など何か異変があれば早期の来院をおすすめします。

2019.05.06