前立腺癌
前立腺癌
病態
犬における前立腺の腫瘍は稀ではあるが、発生した場合にはその多くが悪性腫瘍です。
猫における前立腺の腫瘍も極めて稀な病態です。
犬の前立腺が腫大している場合に考えることは、良性の変化か悪性の変化かということです。良性の前立腺の変化とは、前立腺肥大症と呼ばれるものであり、ホルモン依存性に引き起こされる変化です。つまり、去勢手術をしていない個体ではこの前立腺肥大は比較的よくおこる変化となっております。これは、あくまで腫瘍ではないため、去勢手術を行いホルモン分泌が減少すれば、次第に前立腺は縮小します。一方、悪性の変化とは、前述した腫瘍性の変化の事をさします。腫瘍性変化はホルモン濃度に依存せずに引き起こされるため、去勢手術を行っていたとしても予防効果はありません。
前立腺腫瘍はその多くが悪性腫瘍、つまり癌であり周囲の正常組織へのダメージも大きくなります。
診断
前立腺癌の診断には各種検査および去勢手術の有無により絞り込んでいき判断する必要があります。
通常は腫瘍の診断において針で腫瘍細胞を採取するFNAという検査を行うケースが多いのですが、前立腺癌(膀胱の腫瘍においても)では転移率が激しい腫瘍が存在するため、針を刺すことによって転移を発生させる可能性があります。よって、FNAによる検査はあまり行わず、その他画像検査(レントゲン検査、超音波検査)、直腸検査による触診、血液検査による炎症数値の具合などから総合的に判断し、疑わしい場合には前立腺全摘出術により組織ごと切除し、病理診断において診断することで確定診断が可能です。
治療
病態の進行具合を考え、可能であれば上記の前立腺全摘出術が適応となります。しかし、前立腺癌の腫瘍特性上、効率に転移を起こしやすく、局所浸潤も激しい傾向にあることから術後にも再発の可能性があること、手術後の尿失禁などの合併症が効率に引き起こされることを考慮した上で手術に望む必要があります。
抗がん剤による化学療法は現時点で前立腺癌に有効性が確率されたものは存在しません。しかし、一部の抗がん剤において効果が期待されている薬も存在するので、外科的処置が症例の状態上、困難な場合には検討することもひとつかと考えられます。
肥大化した前立腺癌による、排便、排尿困難や骨転移により生じる疼痛がひどい場合には放射線治療が症状の緩和目的で行われることもあります。
さいごに
前立腺癌は腫瘍じたいの悪性の挙動が激しいものであり、予後は決して良いものではありません。しかし、早期に発見し可能な治療を組み合わせていくことによって生存期間を延長されるという報告もあるため、患者の様態も鑑みつつ、より積極的な治療を行うことも選択肢のひとつと考えます。
この病態が疑われた際に少しでも早く診断に至れるよう、日常でのご自宅での症状(元気消失、食欲不振、排尿困難、血尿など)の有無と、去勢手術を予め行っておくことはとても重要と感じます。多くが高齢になってから生じる機会が多いため、違和感を感じましたら早期の受診をお勧め致します。
2020.06.30