動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

犬の鼻腺癌

疫学

鼻腔の腫瘍は犬の腫瘍のうち約1%とされており、そのうち約50%を鼻腺癌が占めます。

鼻腔腫瘍の多くは中高齢に発生しますが、まれに若齢でも発生します。また長頭種が他の犬種に比べて発生しやすいとも言われています。

 

診断 

症状は膿性鼻汁、鼻出血、呼吸困難、顔面変形、くしゃみ、逆くしゃみ、眼脂、流涙など様々です。

レントゲン検査では鼻腔内が白く写る(不透過性の亢進)だけだったり、骨が溶けていたり様々です。しかしこれだけでは炎症と腫瘍のしっかりとした鑑別はできません。

細胞診検査(病変部に針を刺して吸引する検査)も炎症と腫瘍の区別がむずかしく、CTやMRI検査で腫瘍と予測されても治療法の選択などのため確定診断には生検による病理組織学的検査が必要です。

生検のやり方には

①外鼻孔からのストロー生検

②腫瘍で盛り上がった部分からのパンチ生検

③内視鏡下生検

などがありますが、どれが適応になるかは腫瘤がどこに存在しているかによって変わります。

 

治療

鼻腔腫瘍の多くは局所浸潤性で、遠隔転移はしにくい傾向にあります。治療法としては放射線療法が推奨されています。外科療法と放射線療法を併用しても、放射線療法単独の場合と比較して予後に差はないと言われています。

放射線の照射方法は低線量多分割照射、高線量低分割照射がありますが、効果・副作用・麻酔頻度・金額・年齢など様々な要因を考慮して症例ごとに検討されます。 

化学療法(抗がん剤を用いた治療)に関しての情報は少なく、効果は明らかになっていません。

 

予後

放射線療法を行うことで約80%の症例で症状が緩和され、低線量多分割照射だと1年生存率は60%前後、高線量低分割照射だと1年生存率は25〜60%前後と言われています。

 

鼻腔腫瘍の症状がくしゃみ・膿性鼻汁など鼻炎と似ていることもあって、ひどくないし家で様子を見ているという方もいらっしゃるかもしれません。

しかし中高齢を迎えた犬ではその背景に腫瘍が隠れているということもあります。もし鼻炎のような症状があれば、体調に変化がなくても一度来院していただき検査をしていただくことをお勧めします。

2020.11.12