動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

腸重積

腸重積とは、管状の臓器である腸の内腔に隣接した腸壁が陥入した状態のことです。

腸重積は小腸である空腸・回腸、あるいは小腸と大腸の接合部である回盲結腸部で起こります。口から入り胃で消化された食物が小腸内をぜん動運動で運ばれる際に、何らかの消化管運動機能の異常が起こることによって発生します。


腸重積の引き金となる消化管運動の異常を起こす疾患としては、異物や中毒性物質の誤飲誤食、細菌やウイルスあるいは寄生虫によっておこる腸炎、リンパ腫などの消化管腫瘍、炎症性腸疾患などの消化器疾患などがあげられます。また、人では比較的若齢時での発症が多いとされています。


腸重積を起こすと、消化した食物が流れていかない消化管閉塞の状態になるばかりでなく、重積した腸管で血行障害が起こります。その結果、食欲不振、元気消失、嘔吐、悪心、腹痛、発熱等の症状を起こします。放置すると、血行障害を起こした腸管の炎症・壊死が起こり、腸管穿孔、腹膜炎へと進行するとショック状態に陥り死亡する可能性があります。


診断には腹部超音波検査が有効です。超音波検査で腸管の短軸像(輪切りにした形)において、腸壁が二重に見える重積像が見られれば強く疑うことができます。また、腹部レントゲン検査、消化管造影レントゲン検査によって消化管閉塞が疑われる場合などに試験的開腹へ進み、明らかになることがあります。


重積像(短軸像)


治療には外科手術が必要となります。ごく初期の段階であれば腸の重積を解除するだけで済む場合もありますが、血行障害を解除することにより再灌流障害が起こる可能性が高い場合や腸管の壊死・穿孔が認められる場合は、腸管切除および腸管吻合術(壊死した部分を切除しつなぎ合わせる)を行います。術後も入院下での静脈点滴や、高消化性のフードの給餌といった食事管理が必要となります。


回盲結腸部で重積を起こしている様子


消化管腫瘍や炎症性腸疾患といった基礎疾患が背景にある場合には予後は要注意ですが、そうではない場合は予後は良好です。


腸重積に限らず消化管閉塞は放置すると生命の危機に至る場合もありえる疾患ですが、発見・治療が早ければ早いほど早期の回復・退院が見込めるため、異常を感じたときには早めに来院していただき、早期発見・早期治療できるようお願いいたします。

2021.01.09