猫の鼻腔内リンパ腫
【疫学・病態】鼻腔の腫瘍は猫の腫瘍のうち約1〜8%とされており、そのうち約30〜50%をリンパ腫が占めます。
鼻腔腫瘍の多くは中高齢に発生しますが、若齢での発生も比較的多く認められます。
症状は膿性鼻汁、鼻出血、呼吸困難、顔面変形、くしゃみ、逆くしゃみ、眼脂、流涙など様々です。これらの症状は抗生剤やステロイドなどの使用で一時的に良くなることも多いため、これらの薬剤に反応するからといって腫瘍を除外することはできません。
【診断】
レントゲン検査では鼻腔内が白く写る(不透過性の亢進)だけだったり、骨が溶けていたり様々です。しかしこれだけでは炎症と腫瘍のしっかりとした鑑別はできません。
細胞診検査(病変部に針を刺して吸引する検査)も炎症と腫瘍の区別がむずかしく、CTやMRI検査で腫瘍と予測されても治療法の選択などのため確定診断には生検による病理組織学的検査が必要です。
生検のやり方には
①外鼻孔からのストロー生検
②腫瘍で盛り上がった部分からのパンチ生検
③内視鏡下生検
などがありますが、どれが適応になるかは検査で腫瘤がどこに存在しているかによって変わります。
【治療】
鼻腔に限局している場合、治療法としては放射線療法が適応となります。ただし、限局しているリンパ腫に対して放射線療法と化学療法を用いた場合の予後に差が認められていないため、治療法の選択は患者さんの状態やご家族の希望も考慮して決定する形になります。
鼻腔以外にも病変が浸潤してしまっている場合、鼻腔内の病変に対しては症状緩和を期待して放射線療法を用います。また、鼻腔以外の病変には化学療法を用いて対応することが推奨されています。
【予後】
メガボルテージX線を用いた放射線治療の場合症状は約80%の症例で改善が認められ、生存期間中央値400〜500日と言われています。鼻腔内リンパ腫は急激に転移を起こす症例もいれば、放射線単独で数年にわたりコントロールできる子もいます。
鼻腔腫瘍の症状がくしゃみ・膿性鼻汁など鼻炎と似ていることもあって、ひどくないし家で様子を見ているという方もいらっしゃるかもしれません。しかし中高齢を迎えた猫にはその背景に腫瘍が隠れているということもあります。もし鼻炎のような症状があれば、体調に変化がなくても一度来院していただき検査をしていただくことをお勧めします。
2021.06.29