動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

心タンポナーデ

心臓は2枚の心膜で包まれており、この膜によって形成された空間を心膜腔と呼ぶ。

心膜腔に何かしらの原因により液体が貯留することを心膜液貯留と呼び、心膜液が急速もしくは大量に貯留することにより、右心房の拡張不全→右心室→左心系へと影響が広がり、循環不全を引き起こされる。

この状態を心タンポナーデと呼び、全身静脈の鬱滞(慢性経過)、心拍出量の低下(急性経過)を引き起こし、進行するとショック状態となり、死に至る病気である。


【原因】

犬の場合

 海外の報告で、最も多い原因は、血管肉腫であり、次いで特発性心膜炎、中皮腫、ケモデクトーマ、異所性甲状腺癌、感染性心膜炎、その他の疾患となっている。

 日本では、血管肉腫が一番多く、次いで左房破裂、特発性心膜炎の順に多いとされている。これは、日本では小型犬の飼育頭数が多く、心臓病(房室弁疾患)が多いため、左房破裂が多いと考えられる。

 

猫の場合

 猫は、心疾患に伴う心膜液貯留が圧倒的に多いとされているが、心タンポナーデまで陥るケースは比較的少ないとされている。

 ある報告では、猫の心膜液貯留で最も多い原因は心疾患であり、次いで腫瘍(リンパ腫、胸腺腫、中皮腫、腺癌)、猫伝染性腹膜炎、その他の順になっている。

 

【臨床徴候】

 軽度の心膜液貯留であれば、臨床徴候を示すことは少なく、心臓の拡張障害と心拍出量の低下により血行動態に影響が出て、臨床徴候を発現する。

 軽度の症状であれば、食欲・活動性の低下、運動不耐性、ふらつきなどが生じる。

 一方で、心タンポナーデが生じている症例では、虚脱・脱力、可視粘膜蒼白、弱い脈圧、遠い心音、腹水貯留、呼吸困難、消化器症状、不整脈、頸静脈の怒張が認められる。

 

【検査】

 心膜液貯留および心タンポナーデの検査のゴールデンスタンダードは、超音波検査であるが、胸部X線検査、心電図、貯留液の検査、血液検査なども行い、全身状態の把握、基礎疾患精査のために必要となる。

 

【治療(救急)】

心タンポナーデに対する緊急治療は心膜穿刺である。心タンポナーデでショック状態に陥っている動物が来院した場合は、いかにスムーズに心膜穿刺ができるかが重要になる。

2022.11.30