脂肪腫
脂肪腫は分化した脂肪組織からなる良性腫場です。
犬の皮下腫瘤では脂肪腫がもっとも多く,しばしば多発し、数年かけてゆっくりと増大する。そのほとんどは無害ですが,巨大化や周囲圧迫が問題になる場合にのみ切除が必要となります。
また、浸潤性脂肪腫は周囲組織への浸潤性を示すまれなタイプで,四肢などの筋組織に生じやすく切除後の再発が問題になります。脂肪腫/浸潤性脂肪腫は本来どの臓“にも発生する可能性があり、脊髄、気道,胸空内,腹腔内,骨周囲、関節内での発生例が報告されており、これらの部位では,腫瘍の占拠、圧迫、浸潤に関連した臨床徴候が生じ得ます。
脂肪肉腫は脂肪細胞に由来する悪性腫瘍で,約9割が体幹・四肢に,約1割が内臓に発生します。皮下の脂肪肉腫はいわゆる軟部組織肉腫に含まれ,転移性が低く局所浸潤しやすいのが特徴です。ただし脾臓の脂肪肉腫では肝転移がしばしば認められます。脂肪肉腫も全身のどこでも発生する可能性があり、精管、舌,骨髄、乳腺などの発生例が報告されております。
皮下の脂肪腫は境界明瞭な柔らかい腫瘤で触診でも容易に疑えるが、皮下織炎や肥満細胞腫などと鑑別するために細針生検(FNB) を実施すべきと考えます。
FNB で染色されない透明な脂肪滴のみ (まれに分化した脂肪細胞塊を混じる) が認められたら脂肪腫と判定し,一般に生検は不要でありますが、経過次第では手術が必要になる場合もあります。
筋間の脂肪腫は硬めの皮下膨隆病巣をつくり他の肉腫に類似こともあるため、FNBで脂肪腫であることをまず確認し、そのうえで浸潤性脂肪腫と鑑別する必要があります。
皮下の脂肪腫のほとんどは経過観察で問題ありませんが、経時的にサイズを記録し、別の病巣が現れたら必ずFNBを行い、ときに人頭大を超すほどサイズが増大する場合には,病巣は早めに切除することも必要となります。筋間脂肪腫は筋組織の圧迫障害を招くので切除することが推奨されます。
脂肪肉種に関しては悪性度が高く、前述の脂肪腫とは異なり軟部組織肉種という局所浸潤性の高い腫瘍群に分類され、積極的な治療も視野に入れる必要があります。
良性の脂肪腫とはその細胞形態、や挙動が大きく異なるため、しっかりと診断を進めれば、両者の区別に困る機会は少ないと思われます。
脂肪腫は遭遇する機会の多い腫瘍なだけに経過観察となりやすい腫瘍ですが、できる場所、大きさなどによっては良性であっても手術が推奨される場合がありますので、初期の診断と経過観察した上での増大率の変化が重要になってきます。
もし怪しいと思われるしこりを見つけましたらご来院の上、獣医師にご相談下さい。
2023.03.30