口唇裂・口蓋裂
胎生期における初期の段階で、顔面・口腔の形成期に何らかの障害により口唇・口蓋の形成がうまくいかず離開や癒合不全を生ずることがあり、口唇裂や口蓋裂と呼ばれます。
発生部位により口唇裂・一次口蓋裂・二次口蓋裂に分類され、それらが併発すると口唇口蓋裂と呼ばれます。
【原因】
動物においては口腔の形成に重要である胎生25~28日において何らかの要因(外傷、ストレス、栄養状態、薬剤、ホルモン、ウイルスなど)にさらされることで発生します。犬での発生割合としては口蓋裂が最も多く約6割、口唇裂がその次で約2~3割、口唇口蓋裂が最も少なく約1割と報告されています。また、人では遺伝的要因が考えられており、人種による発生率が異なるとされていますが、犬では比較的短頭種での発生がほかの犬種に比べて多い傾向にあるようです。
【症状】
出生後の授乳期において口腔と鼻腔が開通することによる哺乳障害が起こります。嚥下困難、鼻からのミルクの排出、誤嚥による咳や鼻炎症状が現れる場合もあります。ミルクや唾液の誤嚥により誤嚥性肺炎を起こすリスクを常に抱えており、死亡してしまうこともあります。生存するには注意深い哺乳や給餌、手厚い看護が必要になりますが、嚥下障害により低栄養の状態になりやすく、同腹仔に比べ発育不良になる可能性が高いです。
【診断】
ペットを迎え入れるのにペットショップでの購入が多くなった現在では遭遇する機会が減少していると思われますが、自家繁殖する場合や動物病院で帝王切開により出産する場合などに稀に遭遇します。診断は主に外観・口腔内の視診により口蓋裂の有無を判断しますが、裂開の程度が軽度で症状なくある程度まで発育した場合、離開部が小さな点状あるいはスリット状のことがあります。その場合探子などの器具の挿入や通水試験などの検査が必要となる場合があります。また、口蓋裂のある症例では、埋伏歯や歯列の異常、鼓室法や水頭症といった頭蓋の異常、心室や心房の中隔欠損などの心血管系の異常といった他の先天性疾患の併発がある場合があるため、それらの評価のため頭部や胸部のX線検査や超音波検査が必要になる場合があります。
二次口蓋裂(軟口蓋・硬口蓋の離解)
【治療】
治療は口唇あるいは口蓋の離開部を手術により閉鎖、整復することになります。しかし症例がある程度発育していないと術野の確保や器具の操作・縫合が難しくなるため、報告にもよりますが出生後3~4ヵ月から6ヵ月の間に手術を実施するのが一般的です。上記の通り誤嚥性肺炎や発育不良に陥りやすい状態のため、口蓋裂の存在が確認された後、手術可能な大きさまで発育するための栄養管理や看護が重要といえると思います。誤嚥やミルクの逆流により鼻炎症状を呈している場合、症状・重症度にあわせて抗菌薬や粘液溶解剤の投与やネブライジング、輸液や酸素吸入などの支持療法が必要となります。
2023.05.14