移行上皮癌
膀胱移行上皮癌
犬における膀胱移行上皮癌は膀胱に発生する腫瘍のほとんどを占めており、泌尿器系の腫瘍としては遭遇する機会の多い悪性腫瘍になります。
<病態>
移行上皮癌の初期症状は膀胱炎症状と同様の少量頻回の排尿や血尿など一般的な膀胱炎の初期症状と被ってしまうためにレントゲンや超音波検査なしでは発見が遅れてしまうケースも少なくありません。
腫瘍の好発部位は膀胱三角と呼ばれる膀胱と尿管の接合部付近であり、この部分を巻き込んで腫瘍が大きくなってしまうと、尿路閉塞をおこしてしまい、うまく排尿ができない状態に陥ってしまいます。
また、腫瘍自体の悪性度もかなり高く、非常に転移性の強いタイプの腫瘍でもあるため治療はとても困難になります。
<初期の臨床症状>
・ 少量頻回の排尿
・ 血尿
※ 膀胱炎として治療したにもかかわらず治らない場合などは要注意。
難治性の膀胱炎か腫瘍が隠れている場合があります。
<診断>
移行上皮癌の診断は主に超音波検査、レントゲン検査(場合によっては尿路造影検査)にて膀胱内の腫瘤を確認することから始まります。
※移行上皮癌症例の造影検査
膀胱基部の造影領域が欠損している所見
尿検査を行うことで細胞が採取でき診断できるケースもありますが、一般的には画像検査にて腫瘤病変を確認後に尿道カテーテルにて膀胱内腫瘤を直接的に吸引し細胞を採取する外力カテーテル法を行うことが多いかと思われます。
その後、採取された細胞の病理検査によって診断を行います。
<治療>
移行上皮癌に対する最も効果的な治療法が何かはまだ決められていません。
膀胱の中で手術により切除が可能な領域にできた腫瘍であれば外科的切除が最適な治療になります。
外科手術が不適応な場合の第二選択肢としては補助的な化学療法を行います。内容は内服薬(ピロキシカム)と抗がん剤(ミトキサントロンなど)を使用することで病態の進行を抑制、または腫瘍の縮小を狙うものになります。
腫瘍の特徴的に外科手術の難しい部分にできることが多い為、この補助的な化学療法を行うケースが多いと思われます。
もし外科手術が可能であったとしても、転移性の強い腫瘍である為、術後数ヶ月から場合によっては生涯に渡って内服薬を飲み続けることもあります。
治療薬
l ピロキシカム・・・抗腫瘍作用を持つ非ステロイド性の抗炎症薬です。どの腫瘍にも効果を示すわけではありませんが、移行上皮癌には反応を示すケースが見受けられます。
l ミトキサントロン・・・抗がん剤。約3週間に1回のペースで点滴にて投薬を行います。抗がん剤は腫瘍細胞と共に正常細胞にもダメージを与える為、副作用が出る可能性があります。
※ 移行上皮癌に対して他の抗がん剤を使用するケースもあります。
頻尿や血尿は膀胱炎によって簡単に現れる症状ですが、その背景に腫瘍が隠れている可能性もあります。
治療反応の悪い場合や薬を止めると何度も再発してしまう泌尿器症状が見られた場合には早めにご相談ください。
2017.09.06