動物たちの病気 症例集診療内容の一部紹介

動物たちの病気 症例集

軟口蓋過長症

軟口蓋過長症はパグ、ブルドッグやフレンチブルドッグなどの短頭種でよくみられる疾患です。

 

軟口蓋とは、上顎の固い部分(硬口蓋)より奥のほうの、咽喉頭部にある咽頭鼻部と咽頭口部を隔てる軟部組織のことを指します。軟口蓋は、採食時に飲み込まれる食物が気管に入ってしまうのを防ぐための喉頭蓋とわずかに接する程度が正常な長さですが、軟口蓋過長では軟口蓋が長くなっているため、吸気時に気管への空気の通り道を塞いでしまうことで呼吸障害が起こります。先天性のことが多く、マズルが短く咽喉頭部が狭いパグやフレンチブルドッグなどの短頭種が好発犬種ですが、チワワやヨークシャーテリア、ポメラニアンなどでも起こることがあります。後天性も稀ではありますが、腫瘍や喉頭麻痺などの吸気障害を起こす疾患で二次的に引き起こされることもあるようです。


軟口蓋が呼吸路を塞ぐことで、いびき様の呼吸音や吸気時の喘鳴音が臨床症状としてみられ、開口呼吸を呈します。重度になると、呼吸困難、チアノーゼ、高体温、肺水腫を起こすこともあり、緊急の処置が必要になることがあります。診断には、上述の呼吸音や臨床症状のほか、胸頸部のX線検査により軟口蓋の長さや気管虚脱や肺水腫の有無を確認するほか、必要に応じ鎮静下で内視鏡または目視下で直接咽喉頭部を確認することで診断します。短頭種では、短頭種気道症候群といわれる、軟口蓋過長以外の形態的異常(外鼻孔狭窄、扁桃腫大、喉頭小嚢反転、声門狭窄、喉頭・気管虚脱)が併発していることがほとんどであるため、それらの異常の有無についても確認が必要です。


治療は、運動時や興奮時に喘鳴音がみられる程度で日常生活に支障をきたさない軽症の場合、ダイエット、首輪から動輪への変更、運動制限、高温の環境を避けるなどの生活改善のほか、必要に応じ咽喉頭部の炎症を抑えるための消炎薬の投与を行います。軟口蓋の過長が重度の場合や、軽度であっても、過度の興奮や高温環境によって呼吸が荒くなると、軟口蓋が炎症・浮腫を起こし重症化する場合があります。重度の場合、上記の呼吸困難や高体温、チアノーゼを起こし危険な状態になることがあります。その場合、緊急の処置として100%の酸素の吸入、咽喉頭部の炎症や浮腫を抑えるためのステロイド等の抗炎症薬の投与、保冷剤を頸部や鼠径部に当てるなどの体温冷却のほか、必要なら興奮を抑制するための鎮静薬の投与を行います。しかし、根本的な解決のためには軟口蓋の外科的な切除が必要になります。

 

 軟口蓋過長症はその呼吸音から、軟口蓋の過長があることを疑うことは容易ではありますが、短頭種、過度な体重、高温環境、過度の興奮や運動などの悪化リスクによって短時間のうちに急激に重症化し、生命に関わることもあり得る疾患です。普段から呼吸の音や呼吸様態に気を付けていただき、上記の悪化要因をなるべく避けて生活できるように気をつけましょう。

2022.01.26