股関節脱臼
股関節脱臼は主に落下、動物同士のけんか、交通事故などにより瞬間的に強い外力が加わることによって引き起こされます。体格や筋肉量の関係から大型犬より中・小型犬での発症が多いですが、猫でも起こることがあります。また、股関節・大腿骨頭の形成不全や、靭帯の脆弱化の原因となるクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)などの内分泌疾患の素因があると発症のリスクは高まります。
下肢に加わる強い外力によって股関節の可動制限を超える負荷がかかり、大腿骨頭と寛骨臼(大腿骨頭の受け皿となる骨盤のくぼみ)を繋ぐ大腿骨頭靭帯の断裂と、股関節の関節包(潤滑剤の役割をする滑液を溜めて関節を覆っている線維性の膜)の破裂が起こり、寛骨臼から大腿骨頭が突出することで脱臼します。
脱臼時の状況にもよりますが、前背側方向への脱臼が多く、腹側や骨盤内に脱臼することもあります。
前方背側脱臼 前方腹側脱臼 後方腹側脱臼
脱臼が起こってしまった場合、外傷による強い痛みと、体重を支えることができなくなるために患肢の挙上(足を地面につかなくなる)を示します。放置すると関節炎が進行し、変形性関節症につながるため、消炎鎮痛剤(NSAIDs)による内科的治療に加え、疼痛と筋肉の緊張緩和のために全身麻酔を行い、用手整復を試みます。整復後、関節の安定化・不動化を目的に包帯または装具(創外固定器具)による固定を行います(保存的治療)。
創外固定器具による固定
数週間固定を継続して関節周囲組織の線維性修復による安定化を図り、固定を解除します。再脱臼がなければその後は運動制限を続けながら経過観察しますが、整復が困難な場合・固定中または固定解除後に再脱臼する場合・関節内骨折を伴う症例では、大腿骨頭切除術を行います。大腿骨頭を切除することで再脱臼や関節炎のリスクを最小にすることができ、手術直後には難しいですが時間の経過とともに大腿の筋力のみで体重を支え四足での歩行が可能となります。
大腿骨頭切除後
股関節脱臼は外傷に伴うことがほとんどのため、外出時や脱走などでの不慮の事故を起こさないことが予防になります。万が一起こってしまった場合、脱臼につながった状況をできるだけ詳しくお伝えいただけると助かります。また、整復により保存的治療を行った場合でも、大腿骨頭を支える靭帯が元通りに修復するものではないため、少しの力・不意の力でも再脱臼してしまう可能性があります。そのため、固定解除後も後肢に過度の負担がかからないようにする運動制限や体重の管理が必要になります。
2019.04.08